家族信託 Q&A

Q15 .家族信託で、配偶者居住権を組み込むことはできますか?

結論から申し上げますと、民法上の「配偶者居住権」そのものを家族信託(民事信託)の仕組みの中で設定することは、実務上できないとされています。

しかし、「配偶者が亡くなるまでその家に住み続けられるようにする」という目的であれば、家族信託を使って同等(あるいはそれ以上)の効果を持たせることが可能です。

なぜ「配偶者居住権」をそのまま使えないのか、代わりにどうすればよいのかを整理して解説します。


1. なぜ「配偶者居住権」を信託で設定できないのか

「配偶者居住権」は、2020年に施行された改正民法によって新設された「相続」を前提とした権利だからです。

  • 発生要件の違い: 配偶者居住権は、遺産分割、遺贈、または死因贈与によって取得するものです。一方で、家族信託は「契約」によって財産の管理権を移転させるため、仕組みが異なります。

  • 所有権の所在: 配偶者居住権は「他人が所有する不動産」に対して設定するものですが、信託された不動産は「受託者(子供など)」の名義になります。現在の法解釈では、信託財産に対して民法上の配偶者居住権を重ねて設定することは想定されていません。


2. 家族信託で「住み続ける権利」を確保する方法

「配偶者居住権」という名称は使いませんが、信託契約の中に「受益権の内容」として居住の権利を組み込みます。

【具体的な設計例】

  • 委託者: 夫(自宅の所有者)

  • 受託者:

  • 受益者: 夫(第一順位)、妻(夫の死後の第二順位)

  • 信託の内容: 「受益者は、信託財産である自宅に無償で居住し、使用する権利を有する」と定めます。

このように設計すれば、夫が亡くなった後、受益権が妻に引き継がれ、妻は亡くなるまでその家に住み続けることができます。


3. 「配偶者居住権」と「家族信託による居住」の比較

どちらの方法が適しているかは、ご家族の状況によります。

比較項目 配偶者居住権(民法) 家族信託(居住権の確保)
主な目的 自宅の権利を分け、配偶者の住まいと現金の確保を両立する 認知症対策、スムーズな資産承継、管理の委託
自由度 低い(売却や賃貸には所有者の同意が必要) 高い(契約内容で柔軟に決められる)
認知症対策 できない(配偶者が認知症になると売却等が困難) できる(受託者である子が売却等の手続きを代行可能)
二次相続対策 できない(配偶者の死後は所有者に権利が戻るだけ) できる(配偶者の死後に誰に財産を渡すかまで指定可能)
登記 配偶者居住権の登記が必要 信託登記を行う

4. 家族信託を選ぶメリット

もし、配偶者が将来的に施設に入ることになったり、認知症で判断能力が低下したりすることを心配されているのであれば、家族信託の方が有利な点が多いです。

  • 自宅の売却ができる: 配偶者居住権は「住む権利」を強く保護しますが、施設入所費用を作るために家を売りたいと思っても、手続きが複雑になることがあります。家族信託なら、あらかじめ決めておけば受託者(子など)の判断で売却し、その代金を配偶者の介護費用に充てることが可能です。

  • 管理の負担軽減: 自宅の修繕や税金の支払いなどの管理事務を、受託者(子など)に任せることができます。

まとめ

「配偶者居住権」という制度をそのまま信託で使うことはできませんが、家族信託の契約の中に「配偶者が一生住める」という条項を盛り込むことで、実質的に同じ目的を達成できます。 むしろ、柔軟性や認知症対策の面では家族信託の方が優れているケースも多々あります。

 

家族信託 Q&A 目次

家族信託の基本・制度に関する質問

 Q家族信託と商事信託の違いは? ➤

 Q家族信託と遺言代用信託、遺言信託の違いは? ➤

 Q家族信託と遺言の違いは? ➤

 Q家族信託と他の財産管理制度との違いは? ➤

 Q家族信託と税務について? ➤

 Q家族信託と法定後見人がぶつかったら? ➤

 Q家族信託と相続の遺留分がぶつかったら? ➤

 Q農地を信託できますか? ➤

 Q家族信託は誰でも利用できますか? ➤

 Q家族信託を利用できないケースはありますか? ➤

 Q家族信託の契約はどのように結びますか? ➤

 Q家族信託の期間に制限はありますか? ➤

 Q家族信託の契約内容は後から変更できますか? ➤

 Q家族信託を解約することはできますか? ➤

 Q信託財産にできるもの、できないものは? ➤

 Q家族信託契約書は公正証書にしなければいけませんか? ➤

 Q家族信託は登記が必要ですか? ➤

 Q家族信託の費用はどれくらいかかりますか? ➤

 

信託関係者に関する質問

 Q受託者(財産を預かる人)は誰でもなれますか? ➤

 Q受託者が亡くなった場合はどうなりますか? ➤

 Q受託者が途中で辞めたいと言ったら? ➤

 Q受益者(利益を受ける人)を複数にできますか? ➤

 Q受益者が認知症や未成年の場合は? ➤

 Q信託監督人とは何をする人ですか? ➤

 Q家族の間で意見が合わないときはどうなりますか? ➤

 

 実務・管理・運用に関する質問

 Q家族信託を設定した後の銀行手続きは? ➤

 Q不動産を信託した場合、固定資産税は誰が払う? ➤

 Q信託口座はどのように作りますか? ➤

 Q家族信託を設定した後に新しい財産を追加できますか? ➤

 Q家族信託で得た賃料や売却代金はどう管理されますか? ➤

 Q信託不動産を売却するときの手続きは? ➤

 Q家族信託と保険や年金の関係は? ➤

 

法的トラブル・他制度との関係

 Q家族信託と離婚や再婚が関係する場合は? ➤

 Q家族信託の内容が他の相続人に不公平だと言われたら? ➤

 Q家族信託で税務署や金融機関とトラブルになることありますか? ➤

 Q家族信託契約を弁護士や司法書士と一緒に作るべき? ➤

 Q成年後見制度から家族信託に切り替えることはできますか? ➤

 Q家族信託を使った悪用や詐欺を防ぐには? ➤

 

上級編

 Q1.受益者連続信託は何世代まで設定できますか?

 Q2.信託財産と相続財産の評価は同じですか?

 Q3.家族信託で不動産を建て替えることはできますか?

 Q4.信託終了時の清算はどのように行われますか?

 Q5.信託契約が無効と争われることはありますか?

 Q6.家族信託で事業承継をするときの注意点は?

 Q7.家族信託では医療や介護の契約まで代わりにできますか?

 Q8.家族信託と任意後見はどちらを優先すべきですか?

 Q9.死後事務委任と家族信託はどう組み合わせますか?

 Q10.農地や市街化調整区域の土地も信託できますか?

 Q11.共有不動産を信託に入れる場合の注意点は?

 Q12.信託財産に担保が付いている場合はどうなりますか?

 Q13.家族信託が向いていないケースはありますか?

 Q14.信託契約後も専門家の関与は必要ですか?

 Q15.家族信託で配偶者居住権を組み込むことはできますか?

 

家族信託契約後、委託者が亡くなった場合の手続きはどうなりますか?

 Q1.委託者が亡くなったら、信託は必ず終了するのですか?

 Q2.信託が継続する場合、何が起こりますか?

 Q3.信託が終了する場合、どのような手続きが必要ですか?

 Q4.信託があれば、相続手続きは不要なのですか?

 Q5.委託者死亡後に起こりやすいトラブルにはどんなものがありますか?

 Q6.実務ではどのような制度を組み合わせて設計するのが一般的ですか?

 

家族信託目次

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  ・家族信託とは ➤

  ・家族信託の効果 ➤

  ・資産の凍結 ➤

  ・資産凍結は認知症だけではない ➤

  ・家族信託のタイミング ➤

  ・認知症患者の保有する金融資産額 ➤

  ・老後の備えとして ➤

家族信託の例 ➤

  ・一軒家から老人施設へ移住する ➤

  ・共有不動産のトラブル回避 ➤

  ・家督相続と孫への資産承継 ➤

  ・中小企業の円滑な事業承継 ➤

  ・高齢者不動産オーナーの資産管理 ➤

  ・相続対策として建物建設 ➤

  ・障がいを抱えた子を持つ親 ➤

  ・子がいない夫婦 ➤

  ・その他(ペット信託) ➤

家族信託Q&A ➤

  Q家族信託と商事信託の違いは? ➤

  Q家族信託と遺言代用信託、遺言信託の違いは? ➤

  Q家族信託と遺言の違いは? ➤

  Q家族信託と他の財産管理制度との違いは? ➤

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