· 

一般社団法人家族信託普及協会 メールニュース

☆□■□■□■□■□■☆■□■□■□■□■□■☆■□■□■□■□■□■☆

            一般社団法人家族信託普及協会 メールニュース(2021年3月)
                                           2021.3.16発行

☆□■□■□■□■□■☆■□■□■□■□■□■☆■□■□■□■□■□■☆

先月18日、全国銀行協会が、「金融取引の代理等に関する考え方」を公表しました。
多くのマスコミが、「認知症の親の預金を、親族が引き出せるようになる」という
趣旨で報道されましたので、目にされた方も多いのではないでしょうか?

しかしながら、この報道は誤報といってもよいほど、
実際の全銀協の公表内容とは異なっています。

全銀協からの公表資料では、認知症となった方の預金は、
・たとえ親族であっても、本人以外の者が自由に引き出すことはできない
・認知判断能力が低下した顧客との取引をする場合、
  1)民法上の法定後見制度である補助人、保佐人の同意を確認のうえ
    本人との取引を行う
  2)成年後見人や任意後見人を介しての代理取引を行うことが一般的
とした上で、
1:任意代理人の制度がある金融機関の場合は、その制度に従った対応を行い
2:任意代理人の制度がない金融機関の場合は、
   成年後見制度の利用を求めることが基本としながらも
「金融機関がリスクを極小にする措置を行った上で」
ケースバイケースで親族からの預金の引出に応じることが考えられる(無権代理の可能性)
というものです。

わかりやすくいうと、「どうすれば金融機関のリスクが最小となるか、各自で検討してください」
というものなのですから、
特に2:の無権代理を実務上行うには、
金融機関にとって相当厳しいハードルがあると考えられます。
よってこの公表を受けて全国の金融機関が、
「認知症となった利用者の預金を親族が引き出せるようになった」
というものではありませんのでご注意ください。

しかし、この公表を受けた3月8日に、三菱UFJフィナンシャルグループ
(三菱JFJ銀行、三菱JFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券)が、
「予約型代理人制度」を開始するプレスリリースがありました。

https://www.bk.mufg.jp/news/admin/news0308.pdf

この制度は、事前に特定の親族を指定し登録した上で、
将来本人が認知症等になった場合には、
所定の診断書を代理人が提出することで、以後代理人が口座取引
(預金の引出や、有価証券等の解約)ができる制度です。

三井住友銀行やみずほ銀行、また一部の地方銀行でも、
「代理人キャッシュカード」の発行はすでに行われておりますので、
「預金を引き出す」「定期性預金や有価証券を解約する」だけのことなら、
目新しいことではありません。

むしろ、今回全銀協が「考え方」を公表した背景としては、
金融機関がこれら任意代理の制度を導入しやすくしたいという狙いがあるのかもしれません。

いずれにせよ、一般の利用者にとって、
貯蓄してきた資金を凍結せずに有効活用できる選択肢が増えることは歓迎すべきことだと思います。

しかし一方で、引き出された資金が何に使われたかは、
しっかりとエビデンスと共に記録を残しておかないと、
将来の相続時に、相続人間で揉める元になりかねませんので、十分注意が必要です。

一部の専門家間では、すでに
「金融機関の代理人制度が拡がれば、現金を信託財産とする家族信託は不要になる」
とか、
「金融機関の代理人制度にも限界があるので、家族信託の方が良い」
という比較論が議論されています。

私たちは「家族信託売り」ではないのですから、金融機関で代理人制度が拡がったとしても、
状況は何も変わりません。

数ある制度や対策案の中で、
「目の前のお客様にとってBESTな選択肢は何か」
「目の前のお客様の問題を、解決できる制度の組み合わせは何か」
を考え、わかりやすく説明できることが、専門家に求められる最も大切なことだと思います。